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大阪地方裁判所 昭和57年(タ)134号 判決

原告

甲山太郎

右訴訟代理人

崎間昌一郎

被告

乙中玉子

右訴訟代理人

戸谷茂樹

主文

一  原告と被告との間に親子関係の存在することを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判〈省略〉

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、戸籍上、亡丙田一雄(以下、一雄という。)、丙田ハナ(以下、ハナという。)夫婦(以下、丙田夫婦という。)の嫡出子として出生届がなされているが、真実は被告と某男との間に昭和一八年一〇月二五日出生した子である。

2  丙田夫婦は、当時同一町内に居住していた丁某女から、隣町の某男が婚姻外の女性に懐妊させた子を貰つてくれないかと相談を受け、夫婦間に子供がなかつたことからこれを承諾し、生後一日位(同月二六日ころ)の原告を引き取り、同月三一日、右1のとおり出生届をしたものである。

3(一)  原告が丙田夫婦のもとで育てられている間も、被告は、原告が中学を卒業するに至るまでしばしば丙田夫婦方を訪れ、原告の成育の様子をみつめていた。

(二)  原告は、一九歳の時、初めて一雄から真実の母親は被告である旨を知らされた。

(三)  その後、被告自身も原告との面談のなかで、原告は被告が二〇歳の時に産んだ子であることを認める書面を作成し、原告に渡したこともある。

4  昭和五四年一二月二七日、京都家庭裁判所において、原告とハナの間には親子関係が存在しないことを確認する旨の審判がなされ、それに基づいて戸籍もその旨訂正され、原告戸籍の父母欄は空白のままとなつている。

よつて、原告は請求の趣旨記載の判決を求める。〈以下、省略〉

理由

一〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。

1  被告は、昭和一八年一〇月二〇日過ぎころ男児を出産したことがある。その子は、甲藤八男との間にできた婚姻外の子であり、かつ、被告と右甲藤との関係が清算されることとなつたため、右出産の当日被告との対面の間もなく、右甲藤側に渡され、被告の手許から引き離されてしまつた。

2  一方、丙田夫婦は、昭和一八年ころ、当時同一町内に居住していた丁某女から、甲藤某男が妻以外の女性に懐妊させた子を貰つてくれないかと相談を受けていたが、これを承諾し、同年一〇月二六日、出生して翌日の原告を同女から受け取り、同月三一日その夫婦間の嫡出子として出生届をなし、以後養育した。

3  ハナは、その約一か月後、当時物資の配給を受けるための必要上、丁を介して、原告の実母から妊産婦手帳をもらつたところ、それには母の氏名として「乙中玉子」と記載されていた(もつとも、証人丙田ハナの供述では、右手帳の名称について「母子手帳」というが、「母子手帳」は現行の母子保健法(昭和四〇年法律第一四一号)附則五条による改正前の児童福祉法(昭和二二年法律第一六四号)によつて新設されたもので、昭和一八年当時は妊産婦手帳規程(昭和一七年厚生省令第三五号)に基づく「妊産婦手帳」があつたにすぎないが、右両手帳は名称の違いはあるけれどもほぼ同趣旨で設けられたものであり、右昭和二二年以降は「母子手帳」との名称が定着しており、また、ハナは昭和二六年一月一三日女児を分娩しているので、その名称を混同したものと推認できる)。

4  被告の父乙郎は、昭和二二、三年ころ、被告と甲藤との間に生まれた子の所在を調べて原告が被告の子であると考え、同夫婦を訪ね、丙田夫婦に親類付き合いをしてくれ、原告に自分を「おじいさん」と呼ばせてくれなどと申し入れたことがあつた。また、被告も乙郎から原告のことを聞いて、そのころ、秘かに原告の姿を見に行つたことがあつた。

5  被告は、原告がおそらく自分の生んだ子であろうと考えていたこともあり、昭和二五年末ころから、自己の営業する飲食店で使用する箸を一雄から購入するようになつたが、昭和二七、八年ころ、被告は一雄方を訪れ、原告と初めて対面し、その後昭和三〇年ころまでの間、年に一、二回は原告の様子を見に同人方を訪れ、丙田夫婦から原告の通知簿やその受賞した書画の表彰状を見せてもらつたりし、また、原告に腕時計や中学校通学用のカバンを贈つたりした。但し、被告は、原告に自分が実の母であると名乗つたことはなかつた。

6  原告は、中学校在学当時から非行を繰り返すようになつたが、一九歳のころ、再度の少年鑑別所送致の措置を経て出所した際、一雄から同人とハナの子ではなく、被告が実の母であると告げられるに至り、その直後これを確認のため被告に会いに行つたところ、被告はその事実を肯定しなかつたが、否定もしなかつた。

7  被告は、その後も、原告が同棲していた女性と居住するアパートを賃借するのに必要な金員を用立てたり、原告の子月子の三つ参りの時には着物を贈つたりしたこともある。

8  ただ、原告は、被告が実の母であると聞いてから、被告に対して反感を抱くようになり、特に昭和四八年四月下旬ころからは、被告に対して著しいいやがらせや、粗暴な行動に出るようになり、同年一二月二一日夜には、原告は配下の者一名を連れて押しかけ、被告方従業員とこぜりあいを起こし、その後被告に親子であることを認める書面の作成を要求し、被告はその旨の書面(甲第五号証)を作成したこともある。

9  なお、昭和五四年一二月二七日、京都家庭裁判所において、原告の申立に基づき、原告とハナの間に親子関係が存在しないことを確認する旨の審判がなされ(昭和五五年一月一二日確定)、その後、昭和五六年九月一六日、原告の就籍が許可され、現在、原告戸籍の父母欄は空白となつている。

〈反証排斥略〉

二次に、鑑定人松本秀雄の鑑定の結果によれば、原・被告の赤血球型、血清型、赤血球酵素型及び耳垢型による広義の血液型検査の結果からは、原・被告が親子である確率は99.75パーセントであるというのであつて、右両名間に母子関係が成立するとされている。

三そこで、前記認定の諸事実と右鑑定結果を総合して判断するならば、原告は、被告が分娩した子であると推認することができ、これを覆すに足りる証拠はない。

ところで、母とその非嫡出子との間の親子関係は、母の認知をまたず、分娩の事実によつて当然発生すると解すべきであるから、原告と被告との間には親子関係が存在するものといわなければならない。

四よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(石田眞 松本哲泓 村田鋭治)

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